漆器の吸脱水に伴う漆膜の破壊

本論文は、様々な水分雰囲気中において漆器への吸水及び乾燥過程をまず実験的に調べた。この結果、これら吸脱水速度は厚さに支配されており、漆膜の薄い漆器ほど吸水及び乾燥速度が速いことが実験的に見出された。また、これら漆器への水分の出入に伴って、漆膜と木の間に応力が発生することが、弾性論を仮定した有限要素解析によって定量的に明らかになった。すなわち漆器の凸の曲率のある場合、乾燥状態では剥離応力が、吸水状態では界面に添った引張応力が働くことが明らかになった。この応力は大きく、漆膜の破壊が予想されたが、実験的には破壊は一部の場合を除いて認められなかった。これは吸水過程に長時間を要するため、漆膜の応力緩和が起こるためと考えられる。