FIB/TEM法を用いた江戸後期漆器の着色顔料の微細構造解析

古文化財に関する科学的な研究は，従来から行われてきたが，ほとんどが鑑定のための被破壊的あるいは極微量元素分析である。主な測定方法は，蛍光Ｘ線分析，原子吸光分析，質量分析，放射化分析などである。しかしながら，この方法で得られた情報はあくまで限定的な情報である。これに対して，固着成分・塗装成分のような有機物の特定部の詳しい組成分析や顔料の分布に関する情報を得るためには，十分な量の試料を採取した電子顕微鏡などによる微細分析が必要となる。しかしながら，古文化財に関しては，過去において透過型電子顕微鏡（TEM)による構造解析や観察を行った例は極めて少ない。その理由は，漆器などの有機材料を含む試料の場合（1）機械的な研磨処理に対して弱い（2）絶縁物である（3）均一な膜厚の電顕試料の作成が非常に難しいなどである。本研究の目的は，FIB/TEM法を用いて，（1）漆塗りのような有機材料からなる古文化財の構造を明らかにすること，（2）色漆層に用いられている顔料化合物の同定および金属元素の役割を明らかにすることである。本報では，漆層に含まれる顔料の観察結果について述べる。